水を一割多くする理由

 電子レンジで御飯を炊く場合の水加減はコメの容積の1.3倍で、一般的な1.2倍より一割多くして炊きます。

 

 和(なごみ)企画では、「御飯を簡単に炊けるようにしたい」というコンセプトで主に無洗米を使っていますが、無洗米を炊く場合の水加減もコメの1.3倍で一割多くして炊きます。

 

 無洗米を炊く場合に水加減を一割多くする理由は、普通の米を洗って炊く場合は、洗っている間に米粒が水分が吸収されますが、それが一割程度なので、無洗米を炊く場合はその分を多くするわけです。

 

 したがって、電子レンジで無洗米を炊く場合の水加減は、一割増しと一割増で二割増しになって、米の容積の1.4倍になります。

 

 電子レンジで御飯を炊く場合の水加減を一割多くする理由は、無洗米の場合と違って簡単ではありません。

 

 「電子レンジでの炊飯」に取り組み始めて15年になりますが(いきさつはこちらをご覧ください)、もともと食品学や食物学を専門に学んだわけではなかったので、その時に色々と調べたのですが、「1.3倍」と書かれていても、その理由は説明されていませんでした。

 

 特許を取って、その後、オリジナルの炊飯土鍋を作ることを考えたのが2010年の秋ですから11年前です。年が明けて2011年の冬、土鍋の産地である四日市の「万古の里会館」で、優れた電子レンジ用炊飯土鍋を作っている方を紹介してもらったのですが、その方に尋ねても、明快な回答は得られませんでした。

 

 その時に、私からは、電子レンジで土鍋を使って御飯を炊く場合は吹きこぼれやすくなる理由を、電子レンジのマイクロ波加熱と土鍋から放射される遠赤外線との効果であることを説明したのですが、どうやらその中に水加減を一割多くする答えがあったように思います。

 

 十分に水を含んだ米粒を電子レンジで加熱する場合、マイクロ波加熱の特徴で米粒の中心から加熱されて澱粉の糊化が始まります。

 電気でもガスでも一般的な加熱手段では、加熱手段が鍋を温め、中の水と米粒は鍋からの熱伝導で温められますから、澱粉の糊化は米粒の外側から始まります。そこで、米粒の表面に糊化されたバリアができて、米粒の中心の澱粉が糊化する時には外からの水分を取り込みにくくなって、浸漬した時に取り込んだ水分で糊化することになります。

 一方、マイクロ波加熱では、米粒の中心から糊化されて体積が大きくなっても、米粒の外側の澱粉が糊化する時には外の水分を取り込むことができるわけです。この順序で糊化がすすむことによって、マイクロ波加熱では、米粒の澱粉は、一般的な加熱手段に比べてより多くの澱粉を糊化させることができ、水が余分に必要になるのだと考えられます。

 これが、電子レンジで御飯を炊く時に水を一割多くする理由です。

 

 旧来「電子レンジでは水を一割多くして炊く」とされてきたのは、おそらく一般的な1.2倍の水加減で炊くと硬い御飯になってしまうからで、理由は分かっていなかったのではないかと思います。現象を解決するための方策として、「硬く炊けるから、水を多めにすればいい」ということで、「水を一割多くして炊く」ということだったと思います。

 

 しかし、電子レンジでの炊飯で水を一割多くする理由が、米粒の中心から糊化が進むことにあると分かれば、これまで漠然としていたことがはっきりとしてきます。

 

 マイクロ波加熱で米粒の中心から糊化が進むことによって、一般的な加熱方法で炊くのに比べて、米粒の澱粉はより多く糊化されるので、炊き上がりの米粒は大きくなり、食味は良くなります。

 これが、電子レンジで御飯が多めに美味しく炊ける理由です。

 

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